カリウム 心臓を守るが、諸刃の剣ともなる

主成分
アスコルビン酸ナトリウム、カリウム、クエン酸カリウムなど
効能
血圧を下げる、心臓マヒのリスクを軽減する
副作用
吐き気、嘔吐、お腹の不調、下痢など
注意
過剰摂取による高カリウム血症に注意

心臓の正常な鼓動に欠かせない

中高年になると気になるのが、高血圧や脳卒中の危険性です。この予防に効果的と、注目を浴びているのが カリウム です。カリウムは、フルーツ 、 芋 などに多く含まれます。

カリウム

カリウム

カリウム は、化学的によく似た元素である ナトリウム と対になって人体に働きます。両者で異なるのは人体での含有量で、カリウムのほうがナトリウムよりも多くなります。

たとえば、体重60 kgの人には約120(0 .2 %) グラムのナトリウムが、そして約2 g(0 .4 %) のカリウムがあります。

ナトリウム は 血液 や リンパ液 などの体液の水素イオン漉度を中性に保ち、浸透圧を一定に維持しています。

同じように、 カリウムは 細胞の水素イオン濃度と浸透圧を一定に維持しています。細胞の内側にあるカリウムの濃度は外側の30倍も高くなっているのです。

一方、ナトリウムは外側の濃度が内側の10倍になつている。細胞膜を境に カリウム と ナトリウム は著しい濃度差があることがわかります。この濃度差によって、膜の内側がマイナス、外側がプラスに帯電しているのです。これを「膜電位」といいます。

水は高きより低きに流れます。同じように、物質は濃度の高いところから低いところに移動するから、最初に濃度が違っていたとしても、そこに特別な力がはたらかなければ、いずれ濃度差はなくなります。

膜電位はゼロになるはずなです。しかし、ヒトが生きている限り、決してそうはならなりません。細胞膜に埋まっているナトリウム・カリウムポンプという酵素がまるで回転ドアのようにはたらき、ナトリウムを膜の外側に排出する一方で、カリウムを膜の内側に取り込んでいるからです。

この回転ドアをまわすのに必要なエネルギーをATP ( アデノシン三リン酸)が支払っています。

成人の場合、基礎代謝の20〜40 %がこの回転ドアの稼動に消費されています。じっに大量のエネルギーが、膜電位を発生させるのに消費されているものだと感心します。

ヒトの命を守るために、ナトリウム・カリウムの濃度差がいかに大切であるかということです。また、神経細胞の膜の内外でナトリウムやカリウムを出し入れすることで、電気信号が発生します。

これを連続して行うから、神経細胞のある箇所に発生した電気信号を別の箇所に伝えることができるのです。

同じように、筋肉の収縮や心臓の鼓動も電気信号の伝達によって起こります。また、糖類を体内の酵素で化学変化させて(これを「代謝」という) エネルギーをつくる途中で、ピルビン酸ができます。このピルビン酸にリン酸をくつつけるピルビン酸キナーゼという酵素もカリウムを必要とします。

カリウムがいかに大切な元素であるかがわかります。

低カリウム血症に注意

これほど重要な カリウム が生体で不足することがあります。これを「低カリウム血症」といいます。そうなると膜電位が不安定になり、細胞はブドウ糖を取り込むことができなくなるから、エネルギー不足におちいります。

疲労感に襲われ、やる気がなくなり、筋肉だって弱体化します。そのうえ、こむらがえり、便秘や腹痛などの不快な症状も発生します。さらに深刻になると、けいれんや心臓のリズムが乱れ、不整脈まで起きます。

低カリウム血症は、長期にわたる嘔吐やチアジド系利尿薬の使用、アルコール中毒、腎臓障害、代謝異常などで発生しやすくなります。重要なのは、 ナトリウム と カリウム のバランスをとることです。

もし ナトリウム の摂取が多すぎると、このバランスが崩れてしまいます。わたしたちが生きるのに必要な塩分(ナトリウム) は、1日に約3 gもあれば十分です。しかし、この目標値を忠実に守った食事だと、薄味に感じて食欲が湧かないでしょう。

そこで、ついつい塩分を加えてしまう。こうして「ナトリウム過多、カリウム不足」となり、血圧が上昇します。この状況を改善するには、ナトリウムを減らす減塩か、カリウムを増やすかの2 つの対策が考えられます。

後者の、カリウム摂取によって血圧を下げる多くの治験が行われてきました。

心臓マヒのリスクを軽減する

カリウム の摂取量を増やすと、心臓マヒのリスクが減少します。こんな興味深い疫学調査の結果がいくつも報告されています。

そのひとつ、1998年にハーバード大学のアッシュエリノ教授が「循環器」誌に発表した論文です。教授は、心臓病や糖尿病を発症していない健康な、40〜75歳のアメリカ人男性4万3738人を8年間にわたって追跡調査しました。

その結果、食事から摂取するカリウムが1日平均4300 mg という上位2 割のグループの心臓発作の発生リスクは、2400 mg  摂取という下位2割のグループの62 %でした。

この論文から得られる結論は、 カリウム の豊かな供給源である野菜と果物の摂取を少し増やすだけで、高血圧の人やそれまでカリウム摂取量の少なかった人は、心臓発作のリスクを大幅に減らすことができるということです。

血圧を下げる

カリウムの摂取量を増やすと血圧も下があります。ジョーンズホプキンス大学医学部のウェルトン教授は、1995年7 月までに英文で発表されたカリウム摂取の血圧への影響に関する論文から2609人の被験者を対象にした33の治験データを取り出して、メタアナリシスを実行しました。

メタアナリシスとは、過去の複数の治験データをまとめて統計処理を行い、薬の効果を判定する手投です。
こうして発表された論文には説得力があり、信頼度は非常に高いものです。同教授はこの結果を、1997年の「米国医学会」誌に次のように報告しました。1日 2300~3900 mg の塩化カリウム摂取によって、正常血圧の人は血圧が平均3.1  mHg、高血圧の人は平均4.4  mHg 低下します。

同教授は論文のなかで、「カリウム摂取量が少ないと、高血圧が発生することが証明されました。したがって高血圧の治療には、カリウム摂取を勧めるべきである」と結論しました。

降圧剤の前にカリウムをしっかり摂る 薬の前にまだやれることがある

 

カリウム は、用法・用量を超えると危険

カリウム 摂取による血圧降下がハッキリしたとはいえ、やみくもに飲んでは危険です。吐き気や嘔吐、お腹の不調、下痢などの副作用が起こりうるからです。それでも飲みつづけて血中のカリウム値が異常に高くなる「高カリウム血症」になると、さらに探刻です。

脱力感におそわれ、手足や口がしびれ、マヒします。さらに重症化すると、脈拍が乱れて不整脈となり、心臓マヒで死ぬ恐れもあるのです。高カリウム血症は恐ろしい症状なのです。

その高カリウム血症が発生しやすいケースは以下のとおりです。注意しなければいけません。

  1. カリウム摂取量が腎臓の排出能力を上回った場合
  2. 腎臓機能が低下した場合
  3. 高血圧の治療にスピロノラクトン トリアムテレン カンレノ酸カリウム にに代表されるカリウム保持性利尿薬を摂取していた場合
  4. たとえ腎臓機能が正常であっても一度に18 g 以上を摂取した場合

カリウムは用法・用量を守らねば「諸刃の剣」となります。間違っても高血圧の処方薬とカリウムサプリを併用してはなりません。